第0話 未知との遭遇 ~めぐりあい地球~

モノローグ
うう・・・。
私ってそんなに魅力ないのかしら・・・。
夜の八丁堀の公園をとぼとぼと歩く一人の女性。
彼女の名は佐倉ハル。
都内の某美容外科に勤めるアラサー女子である。
今日の婚活パーティーでも声をかけられなかった・・・。
銀座の母に“男性がワラワラと寄ってくるように”と願をかけてもらった「魔法の口紅」をつけて臨んだのに・・・。
魔法の口紅

ううー!
何が色気10倍の「魔法の口紅」よ!

全然男が寄ってこないから、むしゃくしゃして会場のローストビーフ平らげちゃったじゃない!
これじゃ、色気じゃなく食い気よ!

もう、こんな口紅要らないわ!
口紅を投げ捨げたハル。
放り投げられた口紅は弧を描き、池の中へ。
・・・ポチャッ
・・・
・・・ゴゴゴ
・・・ゴゴゴゴゴゴ・・・!
えっ・・・!?
・・・ゴゴゴゴゴゴ・・・!!!
バシャバシャバシャバシャ・・・・!!!!
な、何!!!?
い、池の中で何かが・・・!!?
カッ!!!
ま、眩しい・・・!!!
め、目が・・・!!!

ike

・・・おい。
・・・!!?
そこのマッシュルーム。
・・・マ・・・マッシュルーム・・・。
・・・??
えっ・・・!?
池の中からヌッと顔を出した謎の人
い、池から人が・・・。
・・・今、お主が池の中に落としたのはこの金の口紅か?
それとも、この銀の口紅か?
・・・へ??
答えよ。
この金の口紅か?
それとも、この銀の口紅か?
(な・・・なに・・・この人・・・)
早く答えよ。
(あ・・・も、もしかして、この人、私が投げ捨てた口紅を拾うためにこの池に飛び込んでくれたのかしら・・・?
なんとなく、イケメンっぽいし・・・。
もしかしたら、これが魔法の口紅が与えてくれた素敵な出会い・・・!?)
え、えっと・・・。
そちらのどちらの口紅も違います!
私が落としたのは普通の口紅です・・・!!
なんと・・・。
まさか、この星にお主のような正直な人間がおったとは・・・!
え・・・?
よかろう、お主の清らかな心に免じて、我が姿を見せるとしよう。
バッシャー
キラキラキラキラ
光り輝くビヨンセ
ま、眩しい・・・!!!

おお、しまった。
この星の人間は我の美しい姿が眩しくて直視できないのであったな。

よかろう、美しさを少し抑えるとしよう。

・・・マッシュルームよ、目を開けてよいぞ。

・・・マ・・・マッシュルーム・・・?

・・・。

はぅあっ!!!!!
ビヨンセ登場
あ、足短かっ!!!
な、何この生き物!!?

何を恐れおののいておる?
我のあまりの美しさに驚いてしまったか?

は・・・はあ?

姿を現したからには、名を名乗ることにしよう。

我は惑星グリーゼの第1王子「ビ・ヨンセ」

ビヨンセ・・・?

我が住む星グリーゼでは、「究極の美」というものが銀河系全体の均衡を守ると考え、「究極の美」の定義をおこなうべく、日々研究をおこなっている。

我はグリーゼの王子としてその研究チームのリーダーを務め、銀河系の星々に立ち寄り、“美にまつわるモノ”のデータを収集しているのだ。

ちなみに、この星、地球は研究が始まってから、17番目に訪れた星である。

地球と惑星グリーゼ
は、はぁ・・・

しかし、この星には落胆させられた・・・。

青い海と空、そして美しき緑に囲まれたこの星において、その文明を引っ張る「人間」という生き物たちが、あまりにも“美”にこだわっていないことにな。

美のこだわり・・・?
これほどまでに美しい星に住んでおきながら、人間たちは自分たちの“美”をないがしろにしている。
この星の最上位カーストに君臨する人間たちがこんな状態では、この星も長くはないだろう。
えっ・・・。

たとえば、この八丁堀。
せわしなく働く”サラリーマン”と呼ばれる人種が多いこの街では、肌の手入れをする時間を惜しみ働く人間が多いと聞く。

我はこの地球の“美”のベンチマークを測定すべく、この地を選び、そして、隅田川の川底に身を隠し、水面下から八丁堀の民の“美意識”を研究していたのだ。

・・・
まあ、それ以外の理由としては、暑くてたまらんから水浴びをしていたという理由もあるがな。
まあ、今年猛暑ですから。
・・・ってあなた誰なんですか!?
八丁堀に何の恨みがあるんですか!?

ふっ・・・。
恨みなどない。
我はただ、“美しきモノ”を求め続けているだけだ。

お主が我の呼びかけに対して偽りのない心で応じたからこそ、姿を見せてやろうと思い、姿を見せたのだ。

(あ・・・さっきの口紅を投げたときの質問で・・・?)

「美」というものには“外見”と“内面”の美しさがある。

お主の外見はどうしようもないビジュアルではあるが、内面には美しさの原石を感じた。

よって、美を極めし我が、お主の外見を華麗にステップアップさせるためのアドバイスをしてやろうと思い、姿を現したのだ。

・・・。

フッ・・・。
我のあまりの美しさに言葉が出てこないのだな。

まあ、仕方がない。
本来であれば、我が人間の前に姿を見せることはない。
なぜなら、我の本当の姿を見た人間は、その美しさのあまり、瞬時に失神してしまうからな。

よって、今、我がお主に見せている姿は、本来の美しさを97%ほど抑えている姿だと知っておくがよい。

は・・・はあ・・・。
・・・!!?
(・・・え、ど、どうしたの・・・?)
な・・・なんだ!!
この紫大根のような身体はー!!!!?
!?
(す、水面に映った自分の姿を見て言ってるの?)

わ・・・我の美しい姿はどこへ行った・・・!?
美しさを抑えるとは言ったが、こんな紫大根のような姿になるはずはない・・・!!

も、戻れ、我が身体よ!!!

・・・!?

・・・!?
な、なぜ、元に戻らん・・・!?

戻れ、我が身体よ!!!

-15分経過。
・・・。
・・・。
あ、あの・・。
元気出してください・・・。
・・・なぜ、こんなことに・・・。
一体我の身体に何が起きてしまったのだ・・・。

え・・・と・・・。

あの・・・本当に申し訳ないんですが、私明日の仕事が早いので、これで失礼しま・・・。

ヒラッ・・・。
・・・?

(あ、私の名刺が・・・)

「●●美容外科クリニック 佐倉ハル」

・・・「美容」・・・だと?

は、はい、私、近くにある美容外科で働いているんです。
美容外科・・・。
美容外科といえば、この星において、「美」についてもっとも研究している施設のひとつだな!?
(け、研究・・・?なんか勘違いしてそうだけど・・・面倒くさいわね・・・)
ま、まあ、そんなところです。
・・・よし!
我をお前の研究施設へ連れて行け!

え、えええええ!!?
ムリムリムリムリ、ムリです!!!

お前の心は美しくなかったのかー!!!
口紅を投げつけるビヨンセ

ぎゃあ!!!
痛いっ!!!

あああ、なぜ、我の美しい身体がこんなことに・・・。
あああ・・・。

痛い・・・。
ちょ、ちょっと!!!
乙女の大事な顔になんてことするんですか!!?

うるさいっ!!!
口紅の正しい塗り方も知らないくせに、自分の顔ウンヌン言うのは100年早いわー!!!
な・・・!!!
じゃ、じゃあ、あなた、口紅の正しい塗り方が分かるって言うんですか!!?
ふん。当たり前だ。
我を誰と心得る?
銀河系でもっとも「美」を研究している、惑星グリーゼの王子「ビ・ヨンセ」であるぞ。
それ、さっきも聞いた・・・。
よかろう。
お主のそのどうしようもないビジュアルが激変するような口紅の効果的な塗り方について、我がひとつアドバイスしてやろう。

ビヨンセのワンポイントアドバイス

口紅を美しく塗っている女性

口紅の正しい塗り方とはいったが、口紅の塗り方は人それぞれだ。

よってここでは、口紅を“効果的”に塗る方法を教える。

“効果的”に塗る方法・・・?

さよう。
その方法とは、口紅を塗る前にパウダーファンデーションを唇にのせる方法だ。

えっ・・・!?
口紅を塗る前に、唇にパウダーファンデーションをのせるの?
そうだ。
そうすることにより、口紅が落ちにくくなるだけでなく、口紅の発色がよくなる効果がある。
また、唇はエリアによっては色が微妙に異なる。
その“色ムラ”をなくす意味でも、パウダーファンデーションは使えるのだ。
パウダーファンデーションを唇にのせるポイントとしては、薄めにのせることだ。
ファンデーションをのせすぎると、口紅を塗ったときに不自然になるからな。

また、あらかじめ、唇にある「余分な皮脂」を取り除いておくとよいだろう。
テイッシュなどを使って唇を軽く押さえれば、唇についた余分な皮脂がとれる。

実はパウダーファンデーションには「皮脂吸着成分」という成分が含まれている。
そのため、余分な皮脂が残っていると、皮脂のバランスが崩れ、口紅をキレイに塗れなくなるのだ。


な・・・なんでそんなに口紅の塗り方に詳しいの・・・?
フッ・・・。
惑星グリーゼの王子を舐めてもらっては困る。
さあ、とにかく、お前の施設に早く我を連れて行くのだ。
・・・そ、そんなこと言ったって、もう夜遅いし・・・。
そもそも、うちの医院、今の時間は閉まってます!
な、なんと・・・!
・・・。
ぐはあっ!!!!!
・・・こ、今度は何・・・!?
ど、どうやら、精神的ショックで突発性胃潰瘍になったようだ・・・。
このままでは我はこの場所で命を・・・。
・・・ええええええ!?
ちょ、ちょっと・・・!!!
(救急車を呼んだら、この変な生き物、SF映画みたいにどこかの研究施設に連れて行かれるのかしら・・・。
それはちょっと可哀想ね・・・)
わ・・・分かりました!!
と、とにかく、今日はもう遅いので、うちの家に来てきてください!
(うちは実家暮らしだし、この変な生き物は弱ってるみたいだし、きっと襲われたりしないはず・・・)
・・・。
行っていいのか?
・・・だって、弱っている生き物を放置するなんてできないじゃない・・・。
・・・。
お主の内面の美しさはたしかだったようだな。
(・・・なんでこんなことに・・・。
お母さん、ビックリしないかな・・・)
これが私ハルと謎の生き物ビヨンセとの出会いでした

作:佐倉コアラ / 画:小鳥の親分

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